労務管理者協議会設立35周年記念事業 中国視察・報告

【 上海・蘇州 】


<9月例会/設立35周年事業>

 高知経協・労務管理者協議会は本年創立35周年(昭和47年7月発足)を迎え、それを記念して上海・蘇州の企業視察を9月21日?24日の4日間で実施した。

 中国での企業展開、特に人事労務関連について、その土地柄特有の事情などを研究することを目的に15名が参加した。


■ジェトロ上海センター

 一行は21日上海に到着後、ジェトロ上海センターを訪問し、中国(特に上海)の一般経済事情について経済信息部副部長・神田真樹氏より聴講した。

【中国経済と日中貿易】

 中国の主要経済地域は内陸部と沿岸部に別れ、特に沿岸部は「環渤海」「華東・長江デルタ」「華南・珠江デルタ」の3つの活発な経済圏がある。

 06年のGDPは209,407億元で世界第4位、実質成長率は03年以降10%以上の成長率を続け、正に経済大国である。しかし地域格差は激しく、1人あたりのGDPをみると最上位の上海市と最下位目の貴州省の差は12倍以上ある。

 日中貿易の06年概況は、総額が2,112億9,551万ドル(前年比11.5%)であり、貿易収支の赤字幅は255億4,286万ドルとなり3年ぶりに縮小された。

【06年・日系企業の動向】

 日系企業の動向では日本の東証一部上場会社1,689社の6割が中国に進出している。その内訳は製造業が60.5%で、首位は電気機器で13.4%、卸と小売りを併せると15.3%になる。

1. 日本企業が成功している分野

自動車とデジタルカメラ、コピー機などの事務機は成功している。自動車はホンダ、 トヨタ、日産などで日系メーカーを合計すれば20?30%のシェアを持ち、国別ではトップ。デジタルカメラやコピー機は日本メーカー同士の競争になっている。部品や鉄鋼、素材の分野にも競争力がある。

2. 日本メーカーがうまくいってない分野

テレビや白物家電はシェアが取れていない。総合電機メーカーで2?3年前に1兆円の売り上げを目指すと言っていたところがあったが、とてもそういうレベルには達していない。ごみ焼却や水処理、発電所設備など外資企業単独では導入しにくい公共インフラ分野も欧米に比べて成功していない。

3. 流通などサービス分野について

コンビニは日本の文化であり強いが、スーパーはまだそれほど大きな店舗網を持つところはない。欧米企業ではウオルマートやカルフールが100店舗以上の規模になっている。もちろん店舗数が多ければいいというわけではない。日本の小売は1店舗ずつ確実に利益を出そうとしていて、サービス内容も評価されている。ただし、規模が大きいほうがやはり購買力の面で有利である。金融や通信、物流の分野では欧米に比べてそもそもグローバルに競争力がある企業が少ない。

【中国の平均賃金】

 中国の平均賃金は05年収で18,405元、対前年比14.8%の伸びである。しかしこれも業種による格差が著しく、システムエンジニアで5年続けると月収3万元程度の収入があり、少ない富裕層が下層にひっぱられている数字となっている。また所得格差は都市部と農村部では3倍以上ある。

【中国の抱える社会的課題】

1. 中央政府の統治

出世競争による(担当)地方上主義がはびこり、統治が困難。また、役人の腐敗も見られる。

2. 財政

地方間の再分配機能なし(上納額に応じて交付)。市以下の財政が困難→農地収容による不動産開発が横行。

3. 高齢化社会の到来

合計特殊出生率は、都市部で1.35%(00年)、全国で1.8%(02年)まで低下。生産年齢人口は15年、総人口は30年から減少。

4. 水不足

1人当たり水資源は世界平均の4分の1。しかも、その80%は長江流域以南に。華北・東北の一部では深刻な水不足→長江の水を運河で黄河へ、30年完成予定

5. 与信不在の投資

運用先不足・不良債権化のリスク

6. 技術力不足

労働集約型からの脱却、中国独自のブランド技術を確立することで国内企業を育成

7. 国内消費の停滞

都市と農村・沿海と内陸・都市内の所得格差、社会保障の不安、住宅・医療・教育の負担が大きく個人消費が停滞。

8. 過剰生産

通信、エネルギーなど国有独占業種では不足はあっても過剰なし。飲食、小売など完全民営化業種では市場淘汰により過剰なし。国・公有、民営が混在する業種で過剰生産。

9. 雇用需給の不均衡

高級人材の不足。行政による雇用確保救済措置(国有銀行を使った国・公有企業の救済)。

10. 環境問題

北京の大気汚染、内陸部の水質汚染など。大気汚染が原因での死者40万人(03年)・非効率なエネルギー利用。世界の30%のエネルギ-を消費。米国の3.6倍、日本の6.6倍。


■蘇州福田金属有限公司

 22日、一行は江蘇省蘇州市に本社と工場を置く蘇州福田金属有限公司を視察した。

【企業概要】

 同公司は、福田金属箔粉工業(本社・京都市)の独資子会社として、プリント基板に使われる精度の高い電解銅箔(テレビ、パソコンなどさまざまな電子製品の回路に使われるプリント基板に不可欠なものが銅箔)生産を行っている。

 進出から13年。今は販売先も欧米系企業、台湾系企業など多様化。需要の伸びに支えられ設備はフル稼働状態だ。

 本社・福田金属箔粉工業の創業は1700年という老舗で、初代当主が京都で金銀箔粉の商売を手掛けたのが始まり。同社がプリント基板用の電解銅箔生産に成功したのは1956年で、日本で初めてだった。

 蘇州福田金属は1994年に合弁の形で設立。工場長の山田勝紀氏によると、販売先の日系電器メーカーが華東に進出したことがきっかけだったということだ。

 操業当時は年産2,000トン程度だったが、今は1万2,000トンと6倍に拡大。主に欧米から中国へ、携帯電話端末などの分野、また直接の販売先となるプリント基板メーカーの投資拡大が続いており、需要は急増している。同製品については蘇州福田金属がグループ最大の生産拠点になりつつあり、年売上高は約9億元。

 蘇州福田金属が生産している電解銅箔は、厚さで分類すると最も薄い12ミクロンから最も厚い105ミクロンの7種類。高精度が要求され、バラつきは決して許されない。

 生産ラインは基本的に自動化されている。銅箔を作る電解工程では大きなドラムがゆっくりと回る。次が表面処理工程。エポキシ板など基板材料に接着する銅箔の面を接着しやすくする一方、裏側の面に耐熱処理や酸化防止処理などを行う。一部製品用では接着剤のコーティング処理も行われる。その後は切断、検査、包装へと進み、製品化が完了する。

【雇用関係】

 採用は基本的に地元蘇州の人を採用している。作業員の技術習得には3年かかるため、定着率を上げる必要性があり、その成果として離職率は年10%未満にとどまっている。しかし一人っ子政策の影響か、製造ラインへの就職はあまり人気がない。

 昇給は年1回9%で、賞与は利益により年2?3回支給する。退職金は経済補償金の意味合いがあり、勤続10年以上1年につき1カ月支給する。賃金は1,400?1,500元。売上高に占める人件費の比率は3%程度で、競争力への影響はあまりないということだ。日系他社が台湾や東南アジアで生産している製品がライバルとなっている。

 管理面については、以前は性善説に基づく管理をしていたが資材等がしょっちゅう無くなることがあり、今ではカメラを設置し、係長以上が宿直で3回の見回りをするなど、防止策を施している。

 

【会社データ】

所在地:江蘇省蘇州市蘇州新区珠江路155号

電話:0512-8250201/FAX:86-512-6825-0371

設立:1994年10月/系列:福田金属箔粉工業

従業員:約410人(日本人5人)

平均年齢:25?26歳